アントニオ・猪木名勝負


T・J・シン戦(1974/6/26)

NWF認定世界ヘビー級選手権試合(60分3本勝負)

アントニオ猪木の試合を見始めたのが、この試合から。その頃、鹿児島では金曜日8時から試合中継をやっており、大阪の親戚の人が月曜日に見ており「凄い試合をやるぞ」と言われて、テレビにかじついて見始める。

グリーンのターバンを巻いたインド人らしき男、それが「インドの狂虎」、タイガー・ジェット・シン。サーベルを振りかざし、早くも猪木を襲い掛からんばかり。若手レスラーが総がかりで、サーベルを取り上げると、猪木は虚をついたドロップキック。いつゴングが鳴ったのか、わからない。混乱のうちに決戦は開始された。
猪木は先制打をはなったが、ペースは完全にシンのもの。狂気でノドを痛打、場外に猪木を叩き出して椅子に激突させ、電話機のコードで首を締め上げる。息もつかさぬシンの反則ラッシュにド肝を抜かされた猪木は辛うじて反撃を試みるが、逆に火に油をそそぐようなもの。シンは逆上して、場外で果てしない乱激戦を繰り返す。結果シンの狂乱で一本目は両者リングアウト。
決勝ラウンドに入っても、猪木は自分のペースを取り戻せない。シンは猪木にヘッドロックから通路に引きずり出し、直接床に一発。鋭い音を発して、猪木は倒れこむ。意気揚々とリングに引き上げたシンとは対照的に、猪木はファンに助け起こされてやっとエプロンに。
しかし、猪木の闘魂はこんなものではない。気力でシンにタックル、パンチ、タックルと波状攻撃。ひるんだシンに立ち直るスキを与えず、この試合で始めてシンを場外に落とし鉄柱へガーンと打ちつける。両者血まみれ。
勝負に出た猪木はシンの右腕を取り、ロープを止める金具の間に挟みこむと、恨みを込めて絞り上げる。絶叫するシン… 場内はシーンと静まり返った。目を怒らせ完全にシンの自由を奪った猪木、金具に右腕を釘付けにし、アームブロック、キック。ズルズルと沈んだシンにはもはや戦う気力は残っていない。だが、エキサイトした猪木の攻撃は続く。
シン側のセコンドが高橋レフリーにアピール。リングドクターが診察した結果、右ヒジの亀裂骨折とわかり、試合中止となった。猪木は4度目の王座防衛に成功した。

この遺恨から、宿命の対決は数々のドラマを生んだ。50年3月13日にNWF級認定世界ヘビー級タイトルを体固めで負けてシンに奪われ、ベルトは海外に。5月19日モントリオールで猪木は取り戻す。54年10月4日は、日本初のオイルデスマッチを敢行。
狂乱・シンの前、血を見ずに納まった戦いは一度としてなかった。観客を巻き込んでの両者の抗争。怪我人も続出。新日フロントが鉄柵を設けたのもシン対策のためであった。

アントニオ・猪木(11分25秒両者リングアウト)シン

アントニオ・猪木(9分46秒レフリーストップ)シン

ルーテーズ戦(1975/10/9)

NWF世界ヘビー級選手権試合(60分1本勝負)

猪木は「自分の宿題は二つある。ゴッチとテーズを倒すこと。これをやりとげて初めてレスラーとして一人前になれたと自らを認める事が出来る」と。昭和47年3月、師・カール・ゴッチは猪木に完膚なきまでに叩きのめすと同時に、勝負の厳しさを身を持って教えてくれた。そのゴッチに10月、場外カウントアウト勝ちながら猪木は勝った。残るはルー・テーズ。三年後にチャンスは訪れた。

この日のテーズは意識的にパンチを繰り出す。猪木の出鼻に平手打ち、右フック。猪木が怒った。腕を取りざまボディーシザースの猛攻。テーズはすぐにこれを返し、トーホルドからレッグロック。テーズがパンチを出す。猪木がまたエキサイト。ロープに詰めて、ヒジ打ちを見せた。テーズは逃げ、猪木のやる気をうまく方向転換させて、今度はロープ際でヒジ打ち。さすがに老獪な試合運び。猪木の若さとスピードを計算して巧みにロープを使う。ここらあたりは「ロープの魔術師」を思わせる海千山千の役者。
15分が経過した。猪木とテーズはロープ際、ポストあたりでもみ合い、パンチとヒジ打ちの応酬。猪木がパンチをくうたびにカッとなる。猪木が反撃するとスイと逃げるテーズ。ところが、またも猪木はテーズに裏をかかれた。虚をつくドロップキック。猪木はリング下に転落。テーズはここぞとばかり、上がってくる猪木をつかまえロープ越にバックドップ。二つの巨体がムキャンバスにのめり込んだ。テーズも後頭部を打った。猪木がようやく体勢を立て直し、キックを一発見舞って立ち上がる。そこをテーズはヘッドロックにとらえる。待ってましたとばかり、猪木のバックドロップ。しかし、完全に決らない。そして、ブロックバスターホールド。テーズの体を横抱きにしてバックフリップのように横から投げ捨てた。今度はテーズの方が意表をつかれた形になり、そのままブリッジに押さえ込まれた。
前半テーズ、後半圧倒的猪木。鉄人・テーズに見事な逆転勝ちを飾った。

アントニオ・猪木(17分43秒体固め)ルー・テーズ

モハメッド・アリ戦(1976/6/26)

格闘技世界決定戦(3分間・15R戦)

東京日本武道館(観衆140000人)を埋め尽くしたファン。世界最強の男、プロボクシング世界ヘビー級王者モハメッド・アリがリングに立っている。異種格闘技でアントニオ・猪木との一戦。
丸一年に及ぶ交渉の結果、アリはついにリングに立った。そして、ゴングが鳴った

1R

猪木はいきなりカニばさみに出たが失敗。そのままグランドでアリを誘うが、アリは挑発に乗らず、猪木の周りをグルグルするだけで、パンチを繰り出そうにもそのチャンスがうかがえず。猪木もアリのパンチを恐れて立たない。

2R

左右のキックで足を狙う猪木。猪木はやっと立ったが、アリは余裕たっぷりに猪木をいなす。猪木は射程圏内に入れない。猪木の跳び蹴りは手をかすめただけ。

3R

低い姿勢でアリの足を執念深く狙うが突破口がつかめない猪木。アリはジレて口汚くののしる。お互い、勝手が違うのかどうも戦い辛い。猪木はラウンドの大半をグランドで過ごす。

4R

同じパターンで攻め続ける猪木。飛び道具もアリにうまくかわされる。アリの方も何もしない。パンチは一発も出ない。そのままの状態でゴング。

5R

猪木のキックが見事にアリの左足に命中。アリはガクリとヒザをついたがすぐに立った。しかし、猪木の攻めが功を奏し左ヒザが赤くなってきた。アリは明らかに一発を狙っている。

6R

猪木に対して主審のラーベルが「つま先で蹴るな」と注意を与えた。アリが左足をつかんだ。しかし猪木はエルボー打ち。これもチェックされた。アリはコーナーへ。気を取り直した猪木だが、決めてなし。

7R

アリの左モモばかり攻める猪木にアリはやっと左ジャブ一発。しかし当たらない。猪木の回し蹴りが再びアリに左ヒザをつかせたがダメージはさほどない。

8R

お互いが一発必殺を狙ってか、どうもファイトに積極性がない。アリはロープを背負い、猪木はキャンバス。足をつかみにかかるアリだが、猪木はトーキックがチェックされて減点された。

9R

アリは左右に動き始めた。「アリ、アリ」の大歓声が沸きあがるが、両者、手を出そうとない。猪木の右キックはもう完全に読まれて、ミスが目立ち始めた。

10R

キャンバスの猪木を軽く蹴り続けるアリ。立った猪木の右頬を左ジャブがかすめた。組んでもすぐクリンチをとられる猪木は手の出しようがない。

11R

「猪木立て」の声が飛び交うが前に出られない。猪木の左足をつかんでトーホールドのアリ。すぐに放すアリも攻め切れない。

12R

右キックの連発でチャンスをつかもうとする猪木だが、懐に飛び込めないのだから効果は半減。

13R

軽いフットワークで猪木のキックをクリアするアリ。猪木は思い切って飛び込みボディーをつかんだがロープだ。猪木は放さない。ヒザでアリの急所を打つ猪木。アリは左のショートストレートで反撃。猪木の左目が心なしか腫れ上がった。猪木減点1。

14R

ルールによって動きを封じられた猪木は、スタートから戦法は始終変わらない。虚をついてアリの左ストレートが決った。ゴング寸前アリはポイントを確実に稼いだ。

15R

最終ラウンドというのに猪木、アリと睨み合ったまま一歩も前に出ない。猪木のキックはすべてかわされる。アリの左ストレートはあくまで牽制だけ。そのままゴング。

戦いは終わった。スリルと興奮を求めた俺にとってはいささか拍子抜けした試合。ボクシングスタイルのアリに、グラウンドでゴロリと横になり下からキックを仕掛けるだけに始終した猪木。互いの力量を知り尽くした二人が金縛りに合った様に動けなかったのも当然。すべてのポイントはそこにある。アリはあくまでスタンディングでの勝負を望んだ。必殺のアッパーを猪木の顎に打てば一発でケリがつく。対する猪木は何とかグランドに持ち込んで短時間で締め倒す。プロレスラー・猪木の完全不利でルールでの戦いの方法はそれしかなかった。
「観客をあざむいた世紀の茶番劇」とマスコミは言った。しかし、俺はそうは思わなかった。世紀の一戦がルールが縛れ、猪木はああいう戦法しかなかったのだ。
結果は主審G・ラーベルが71-71、ジャッジ・遠山68-72で猪木の勝ち、ジャッジ・遠藤は74-72でアリの勝ち。三者三様の判定だった。

アントニオ・猪木(引き分け)モハメッド・アリ

ウィリー・ウイリアムス戦(1980/2/27)

格闘技世界ヘビー級選手権試合(3分間・15R戦)

『熊殺し』の異名を持つウイリー・ウイリアムスが猪木の前に立ちはだかった。極真空手のスーパースター。異種格闘技のフィナーレを飾るのにこれ以上の存在はない。一発必殺。ひとつ間違えばアバラ骨の一本や二本はヘシ折られてしまう。必死の覚悟で猪木はリングに向かった。
東京・蔵前国技館(観衆11000人)の会場は不気味なムードが漂っていた。極真空手を破門になったとはいえ、ウイリアムスは極真空手を代表する男である。関係者がどう思おうとも、世間ではそう見ていた。その雰囲気を察してか、リングサイドに陣取ったのは極真の仲間だった。猪木が反則行為に訴えでもしようものなら、すぐさま飛び出していくような殺気がみなぎっていた。
新日サイドもまさかの不祥事にそなえて若手レスラーをリングサイドに配置。両陣営が緊張したままゴングは鳴った。

1R

互いに手の内を探り合うスタート。ウイリアムスが仕掛けた。回し蹴り、右ローキック。猪木がかわす。ウイリアムスの左右のショートパントチが猪木のこめかみを襲う。猪木はアリキックで応戦。

2R

ウイリアムスのハイキック、前蹴りは、ことごとく空を切る。猪木の道場特訓が実を結んでいる。だが、猪木の頭突きは全く効き目がない。ウイリアムスは猪木の頭を抱えた。ヒザが猪木のみぞおちに食い込み始めた。必死にしがみつく猪木。折り重なったまま場外に転落する両者。ウイリアムスは馬乗りになったまま猪木の額、みぞおちに殺人ヒジを振り下ろす。猪木の額が割れた。乱打されるゴング。両者リングアウト。
「まだ戦わせろ」とファンも抗議。猪木もウイリアムスも戦闘態勢に入る。緊急協議の結果、試合続行。

3R

ウイリアムスのショートパンチの連打が火ぶたを切る。8オンスでの強打は、的確に猪木をとらえる。猪木はロープを使って首を絞め始める。
体勢を立て直したウイリアムスのヒザ蹴りが胃袋に。猪木は腰投げで応戦。ウイリアムスのヒザが猪木の顔面に。
逆十字腕ひしぎ、ウイリアムスのコーナーで猪木はグランド勝負に出る。だが、ロープブレーク。

4R

猪木、ウイリアムスは運命の時を迎えた。壮絶な幕切れは、場外で起こった。ウイリアムスの思い切ったフックの連打。さらにドロップキック。これは距離が短い。猪木もドロップキックをやったが、これはウイリアムスに外されて自爆。フックの応酬。猪木が首をとった。蹴りにきたウイリアムスの足をとってレッグシザース。両者リング下に転落。猪木が腕をとって逆十字架固め。ガッチリ決った。その時、すでに猪木のアバラにヒビが入っていた。「グシャ」と不気味な音がした。ウイリアムスの右腕に異常が起きた。ドクターが入った。両者とも戦闘不能。ドクターストップ。引き分けになった。

まさに血みどろの戦い。ウイリアムスのパンチを受けた猪木。顔面が朱に染まった。一歩も引けない両雄が持てる力以上のものを出し切った。一瞬の油断が命取りになるのを承知の上での一騎打ち。猪木が左わき腹を痛め、ウイリアムスの方は右ヒジの裂創皮下出血で両者ドクターストップでケリがついたが、この試合でポイントだったのはセコンド陣。特にウイリアムス側のセコンドに問題が残った。リング下に転落した二人にむらがり、何やら細工した形跡があった。セコンド陣はあくまで第三者である。男が血を滴らせながらも、戦う本能をむき出しにしていたのに、それを踏みにじった行為は許しがたい。格闘技戦ファイナルマッチに残されたただ一つの汚点だろう。
『柔道王』ウイリエム・ルスカを皮切りとする猪木の格闘技路線はウイリアムス戦で一応のピリオドを打った。15戦して13勝2引き分け。戦った相手はウイリアム・ルスカ、ザ・モンスターマン、アンドレザ・ジャイアント、A・ペールワン、C・ウエップナー、ランバージャック、K・ミルデンバーガー、ミスター・X、L・デイトン、K・クロケードなど。

アントニオ・猪木(4R・4分24秒 両者ドクターストップ)ウィリー・ウイリアムス




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