結 婚 式 報 告 日 記



朝、六時に目が覚める。前夜の酒が身体を駆け巡り、ぐっすり眠れたようだ。本日、11月23日(日曜日)、みっちゃんとの結婚式なのだ。結婚式は色々な事情で埼玉県飯能市の『岩清水』で、身内だけで取り行うことになった。時間は二時半、式はチャベル式。俺はタキシードを着ることになる。この時ばかりは、神を信じる事になる。そんな事はともかく、今日は時間刻みのいそがしさなので布団から飛び出す。ここは、俺の母親の兄弟(素直に叔父さんのマンションと書けば良かった)の東京・麹町(日本テレビの近く)マンション、朝早くから二時間もかけて埼玉飯能市に行かなければならない。髪の毛を切るためだ。独身最後の散髪、この『独身最後』という言葉に妙な感動を覚えながら、独身最後の叔父のマンションを飛び出し、独身最後の有楽町線に乗り、独身最後の池袋に着く。あんまり、独身最後と書きすぎだ。途中スポーツ新聞を買う。前日の土曜競馬が気になり、後で結婚式どころではなくなるかもしれないからだ。うそうそ。馬券と新聞を見比べながら、ため息の連続。世の中良い事づくめではない事を思い知らされる。それでも、本日のジャパンカップに期待を持ちながら、馬券の事は忘れる事にする。西武池袋線『飯能行き』に乗り、道中、文庫本を読む。少しでも日常生活と変わらないように、緊張感を解くように過ごすが、頭の中は「これからは、もう、俺は一人ではないのだ」という期待と不安が交差し、結婚式の緊張の時間を思い、苦痛で胃がチクチクする。「あっ」という間に、飯能駅まで着き、西武秩父線に乗り継ぎ、みっちやんの実家がある高麗駅に着く。考えてみれば、みっちやんと出会い、二年弱、よくまあーこんな遠出の遠距離恋愛を続けられたと、我ながら感心する。横浜・高麗間、最低でも二時間はかかるのに、週に二回は会っていたなんて、今考えると、ゾツとする。これが、愛があれば、どこまでも・・・という『愛の吸引力』というのかもしれない。わけのわからない事を考えながら、みっちゃんの家の近くの散髪屋で、髪を切ってもらい、みっちやんの家で早い昼ご飯を食べる事になる。そして、つかの間の時間、みっちやんと色々と出会ってからの事を話しはじめたのだが、今の二人の思い出は感傷的にさせられる。最初の出会いは『四谷』、最初のデートは『新宿』、よく行った場所は『池袋』、遠出したのは『鹿児島旅行』と、思い出話しに花か咲く。某友人から「彼氏が立てるデートの計画橋よは、競馬に縁のある所が多い。東京競馬場、大井競馬場、新宿・渋谷・後楽園・浅草は場外馬券売り場」と言われ、俺は腹を立てて、彼女をディズニーランドに連れていったりした。また、ケンカもよくやった。つまらない事、深刻なケンカ、それぞれの困難を乗り越えて、今日を向かえる事ができた。友人関係でのケンカが多かった。ケンカをしながら、相手を思いやる事ができたのかもしれない。ケンカするほど、仲を深める事が出来た。隠し事なく、思った事はその場で言って、ケンカする事もあったが、それが、一番酔い形で結婚できたのかもしれない。そうそう思い出に浸っている場合ではない。時間は過ぎていく。結婚式場まで、みっちやんの父親が車で連れていってもらい、みっちやんと俺は、早速、美容室に。みっちやんが花嫁衣装にに変わっていくのを見ながら、俺は黒のタキシードに着替える。鏡で見ると、自分で言うのも何だが、中々の出来。みっちやんはというと、「ええっ、この人がみっちやん?」と疑う程、変わってゆく。着替え・化粧が済むと、介添えさんに連れられて写真室に行く。ウェディング・ドレスは歩きづらいらしい。俺がスイスイとみっちやんを置いて歩いていると、介添えさんから何度も叱られてしまう。確かにドレスの後ろの方は、モップのように引きづり、慣れない高いヒールを履いているのだから、思いやりのない俺だと思われても仕方がない。しかし、俺は正式な場では妙に緊張するのだ。写真室では生涯で一番良い顔をしようと思ったが、肩はガチガチになり、上がって声まで高くなる。写真に声は関係ないか。失礼。と、言っている間に、親族・両親が集まり、結婚式のリハーサルの時間になる。色々な人から「ああだ、こうだ」と結婚式の進行の説明を聞くが、話しの半分も俺は聞いていない。「牧師らしい牧師に、はまり役だなー」とか、よくテレビとかで結婚式のハプニング集の数々が頭に浮かび、もし、失敗したらとマイナス思考になってしまう。余りに緊張しているものだから、介添え人から「あっと言う間に式は終わるから、心配しないで」と言われ。続けて「あっと言う間に、すむから、もう一度やりたいって言うかもよ」と、シャレにならない冗談を言われる。リハーサルにならないリハーサルをやり、いよいよ本番。ウエディング・ベルが教会に鳴り響き、ゾロゾロと親族が集まってくる。父、母、弟、弟の嫁さんや、みっちやん方の両親、親戚の見守る中、俺達は教会に向かって歩いてゆく。緊張のあまりヨロヨロとなるが、後ろにいるみっちゃんが、ちやんと、ついてくるかどうか気になりながら歩く。「おめでとう」の大合唱。写真をバチバチ取られながら、やっと、今、結婚式の本番なのだという気になってゆく。この結婚式をやるに当たって、色々な事があったなーと思いが込み上げてくる。ある人に言わせれば「どんなにいカップルでも、結婚式の準備はスムーズに進む事はない」と言われた。両家の思いが交差し、何らかの問題や障害が出てくる。俺とみっちやんの間でも、そういう諸問題が出てきたのだが、色々なところで妥協し、考え、検討し、色々な人に相談しながら、二人で最高の式にしょうと頑張ってきた。それで、今、皆から喜ばれている事が重なり、ウッと涙がでそうになる。後、数分、こういう状態が続けば、涙腺が破裂したかもしれない。花嫁の父親から花嫁を渡される場面でも、一度も歌った事ののない賛美歌を人に合わせて、歌う時でも、頭の中は真っ白。ただ、気づけば、牧師が「・・・約束しますか?」と言われた時、俺はハッとし、「何に対して約束するのだ」と思ったが、こういう場でこういう時だから。「生涯、妻を愛する事を約束しますか?」だと思い、「約束します」と宣言した。そして、みっちゃんも「約束します」と言う。指輪の交換でも、緊張し、どっちの手が左なのかなと、茶碗を持つ仕草をしそうになったりした。そして、最大の難関、キスの場面。この時ばかりは三三九度で勘弁してくれとも言えず、人前でキスする事になる。自分が外国人でない事に後悔する。挨拶がわりに、人前でキスなんて出来るものではない。また、頭は真っ白状態。気がつけば、俺は皆にワインを配っていた。教会の外で乾杯。そして、篭の中の白い鳩を飛ばそうと、篭を開ける紐を二人で引こうとするが、うまくいかない。強く引こうとすれば、篭ごと引き寄せられ、篭が倒れそうになり、焦るハプニング。「上に引いたら」という天の声がし、その通りにやると、綺麗に篭は開き、数羽の白い鳩が、二人の幸せのスタートを祝うように、飛び立っていった。飛び去った後、あの鳩は、どうなるのだろうと、心配になりながら、皆からの祝福のフラワーシャワー。もう、その頃には緊張も解き離れ、引き吊った顔から、笑顔に変わる。そして、集合写真を滞りなくすませ、披露宴。今度は司会者の叔父が緊張しながら始まることになる。新郎の俺の事を、よくぞここまで俺を褒めてくれたかと思うほど褒めちぎり、新婦紹介となると涙の出てくるほど、名文句も出て来る。俺達の披露宴が疲労宴にならないよう、また、せっかく親族が集まるのだから、親族同士が仲良く食事が出来るように、俺達二人が雛段に座らずに、同じテーブルで、同じようなスーツで食事し、皆にキャンドルサービスではなく、お酒のアルコールサービスで盛り上げた。勿論、お色直しも無しにして、少しでも皆といる時間を長くとり、親睦を深めた。お蔭で、最後には俺の父親とみっちゃんの父親が肩を組んでいる光景を目の当たりにし、俺達二人は手を叩いて喜んだりした。披露宴はカラオケタイムに入り、芸達者なみっちゃん方の親戚の替え歌ではじまり、弟夫婦のデュエット、みっちやんの義理のお兄さんが歌ったカラオケには、みっちやん大感激。これが、これが、大の大のお気に入りの歌だったのだ。感激で顔をクシャクシャに喜ぶ。宴もたけなわ、気がつけばもう友人達の結婚披露宴パーティーに向かわないといけない時間になる。もう、その頃には、二つの家が一つの家になったみたいに、真の盛り上がりになる。弟の一歳に満たない子供をあやしているみっちゃんのお姉さんの子供の小学三年生、みっちゃんの母はその子供にミッキーマウスの喋るヌイグルミのプレゼント、叔父は叔父でみっちやんの父の兄弟と何やら話し込んでいるわ、俺もみっちゃんの母親の妹に冷やかされたり・・・ 徐々に友人達の結婚披露パーティーの時間が気になりだした頃に、司会者が気をきかし、俺達二人は子供から花束を貰い、お返しの玩具を渡すと、大いにはしゃぐ子供達。そして、両家に花束贈呈。両家の代表の謝辞では、俺の父親が大衆の前で喋るのが苦手らしく棒読みになってしまう。そして、皆を残して慌ただしく俺達は身内だけの披露宴を抜け出してしまう。勿論、最後は一人一人に感謝の言葉を残して行ったが・・・ 時間は午後五時十五分、特急レッドアローの池袋行きの飯能発は五時二十三分、時間が刻々とちかづいてくるというのに、中々、渋滞で走らないみっちやんの姉の運転する車。俺は酔っ払いながら、ぼやく。ぼやいても仕方がないのだが、どうしょうもない。永ちゃんの『時間よ止まれ』を歌いたくなる。歌おうとすると危なく駅に着く。下手な歌を、みっちゃんの姉にご披露するという失態はまのがれた。滑り込みセーフで、レッドアロー号に飛び乗り、二人はホッと息をつくと共に、徐々に結婚式の大成功に感激も倍増。しかし、我ながら、こんなに良い結婚式に、自分達が主役になれた・・・と、二人で、レッドアローに乗り込んでコーラで乾杯。一息つくと、某氏に連絡をとり、ジャパンカップの結果を聞くと完敗。池袋に着いた二人は、会場のある東明天飯店に足早に進む。友人達の結婚披露宴パーティーの最大の目的は、勿論、俺達の二人の幸せを一番仲のい友人達に見てもらうのも一つの目的だが、友人の輪も大切にし、「このパーティーで知り合った結果、友達になった。恋人同士になったと」今日を何かのきっかけになって欲しいと思い、司会を引き受けてもらったり、最後の細かい部分まで企画を考えてもらったり、受け付けも気持ちの良い程の明瞭会計。参加者は昔の友人や、中学時代の友人カップル、大学時代の友人、みっちゃんの友人、飯能グループ等で、男女半々、半分以上が初対面になるよう多種多様に友人を集めた。別な意味で、この披露パーティーが人生の上での同窓会状態になり、懐かしくもあり、これから先、この友人達と、もっと楽しい人生を歩む事が出来る予感もさせてくれた。パーティーは、司会者の医者・看護婦さん『ナースのお仕事』バージョーン仮装で始まり、友人代表の新郎・新婦の紹介、俺の大学時代の悪友の生ギター演奏、アカペラカラオケ、賞品ゲット一発芸挑戦ゲーム、ディスコタイムと続き、皆が皆、俺達二人を祝福してくれ、俺も最後の挨拶の時に、涙が出そうになった。参加者四十人が、一つにまとまり、これほどうまくいくとは思わなかったが、幸せな時を俺達二人と友人達は過ごす事が出来た。本当に友人というのは一つの財産だ。「あっ」と言う間もなく、幸せな時が過ぎていった。披露パーティーの後は、当日までみっちゃんには話したくても我慢して黙っていたのだが、実は新宿プリンスホテル宿泊のプレゼントをしょうとしていたのだ。その関係で、友人にとっては二次会、俺達二人にとっては三次会は新宿に向かう事にする。早速、慌ただしく、俺達二人はプリンスホテルにチェックインし、皆に遅れをとってはイカンと、皆と『新宿カチカチ山』にて、飲みまくり、俺達は十二時まで盛り上がり・・・という夢のような理想的な一日を過ごす事が出来た。(終わり)
追伸1:法律的に夫婦になったのは日は、11月25日(本命竜馬の誕生日)。誕生日に婚姻届けを出したいと、昔、夢物語のように友人に話していたが、それが本当に現実になった。
追伸2:新婚旅行は引っ越し、仕事の関係が落ち着いてから、ゆっくり休みをもらい、『ホップ・ステップ・ジャンプ新婚旅行』と名付けた新婚旅行をした。一度に海外に行き、お金わ使わずに小旅行を三度に分けて『軽井沢、大阪、鹿児島』と三回新婚旅行を楽しんだ。



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