改札口を出ると大雨が降っていた。
アスファルトに叩きつけられる雨の
飛沫が顔まで飛んできそうだ。
しかし、傘を持っていない。
持っていたとしても、この雨では、たちまちビッショリと濡れてしまう。
俺は走り去る車の水飛沫を見つめながら、ふと、隣りを見た。
一人の女がいた。
緑色のスカートから伸びたふくらはぎに雨のはねが当たり、妙になやましい。
「駅の中の喫茶店で、コーヒーでも飲みませんか」
俺は自分の言った言葉に驚いた。
ひとりでに言葉が口から出たのだ。
確かに、隣りの女は魅力的な女だが、俺はナンパなどやった事がない硬派な人間だ。
しかし、何とも臭いセリフに恥ずかしさを覚えた。
「ええっ」
女は恥ずかしそうに頷き、うつむいていた。
信じられない事だ。
こんな言葉でナンパが成功するなんて…
俺達はどちらかという事もなく、カップルのように腕組み、駅構内の喫茶店に向かった。
「貴方、私の事が好き?」
「愛している」
「君の事、いつまでも離さないよ」
「君の瞳は太陽のように眩しい」
駅構内は男女のカップルが増えていた。
高校生カップル、会社員とOL、先生と生徒、中にはおじいちゃんと小さな女の子までが、愛を口走っていた。
「次のニュースです。本日、●●駅構内で新型ウィルスが発見されました。一人の女性がIメールを受け取った事から、被害が広がったようです。このIメールを受け取ると、近くにいた異性を愛するようになるという症状が現れます。その影響で、恋人や配偶者がいる方は、揉め事の原因となって、裁判所に駆け込んでいる状態です。また、役所の戸籍課は突然の大量の婚姻届けの対応に、追われています。皆様、このIメール、愛メールが届いても受け取らないようにしてください」
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