俺は彼女を渋谷のハチ公前で待っていた。
北風の冷たい中で・・・
が、何分たっても彼女は来なかった。
待ち合わせの時間を18分も過ぎている。
「やられた・・・」
彼女はいつもそうなのである。
約束の時間通りに来た事がない。
俺と彼女が初デートをした日からつけている日記によれば、俺が彼女と付き合い出してからの一年半の間で、合計80時間も無駄に待たされた事になる。
今日という今日は、許さないぞ。
今日は彼女の抗議の為に、証拠の日記帳を持ってきている。
しかし、彼女は、遅れてきた言い訳がうまい。
俺がプンプンと怒って、冷静でない頭に、彼女の早口の言い訳と、密着される身体で、これまでは何度となく誤魔化され、騙されてきた。
しかし、今日はこの日記帳がある。
彼女の言い訳は、よく考えると(よく考えなくてもわかるが)下らない。
俺もよく騙されたものだ。
『久し振りのデートだから美容院に行って髪を一センチ切ってもらったんだけど、いつの間にかに時間が過ぎてしまって』だの『編隊痴漢ストーカーが、私を追い回して、逃げていたから』とか『急にお腹が痛くなっちゃって』だの。
急に腹が痛くなった奴が、ビール大ジョッキ三杯も飲むかってんだ。
しかも、バスのストライキ二回、車の故障十三回、友人とばったり再会二十二回、財布紛失四回、妹が駄々こねた三回、親の病院行き十二回、時計が止まっていた三十八回、子供が迷子になっていたので交番に連れていった(そんなに優しい人だったか?)という輝かしい遅刻言い訳歴がある。
そんな事を考えながら、時計は約束の時間を46分過ぎた頃、彼女は小走りでやってきた。
「ごめんなさい。家を出ようとしたら、電話が掛かってきて、祖母が倒れたんだって。すぐに実家に戻ってみたんだけど、大丈夫だったみたい。本当に、ごめんね」と、案の定、彼女は俺の身体にまとわりついてきた。
が、今日の俺は違う。
心を鬼にして、今までのウップンを爆発させた。
「いつも、いつも遅刻しやがって。俺がどういう気持ちで待っていたか、わかっているのか」と、俺はコートの中に隠し持っていた日記帳を彼女に渡した。
彼女はびっくりして、日記帳を受け取り、俺に命じるままに、日記を読んでいった。
数十ページ、彼女が読んだ後、「私も読んでもらいたい物があるのよ」と、彼女は冷静にハンドバックからメモ帳を取り出した。
メモ帳には日付と一緒に『正』の字が、何かをカウントするように書いてあった。
「これは、何だ」
「知りたい?」
「知りたい。何だ、これは」
「これは私と初めてデートした日から今までの、貴方がデート中にしたオナラの数よ」
「ええっ・・・」
俺は何も言えなくなった。
そのかわり、またオナラが出てしまった。
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