魚が嫌いな理由がある。
昔はそうではなかった。
昔は魚をよく食べていたのだ。
それが・・・
「あわっ」
俺は箸をテーブルに落とした。
俺は両手を喉に押さえだした。
「どうしたの」
母は心配そうに、俺を覗き見る。
「魚が喉に・・・」
「魚か喉の中を泳いでいるの」
「違う、違う」
母のブラック・ユーモアも、今は笑えない。
喉が苦しい・・・
魚の骨が喉に引っ掛かったのだ。
「唾を飲み込んでみれば」
母は簡単にも、そう言うが、唾を飲み込もうとしても、苦しくて簡単にはいかない。
あまりにも痛いので、ついに我慢出来ずに、俺は口をガバッと開けて、喉の奥に手を突っ込んだ。
魚の骨かもしれない。
俺は思い切って、それをつかみ一気に引き抜いた。
「違った」
魚の骨ではない。
その証拠にまだ喉の中に激痛がある。
もう一度、俺は口を開けて、手を突っ込んだ。
固い物にぶつかり、それを引き抜く。
「また、違った」
痛みは、ドンドンと酷くなっていく。
俺は、懲りずに喉の奥に手を突っ込むと、魚の骨らしき物を、無我夢中で引き抜いた。
「あわっ、違う、また違う。今度も違う」
俺は喉からドンドンと魚の骨らしき物を抜き出していった。
母は呆然と、俺の様子を見ている。
母が俺を呼んでいる。
我に返ると、俺の周りには大小様々な骨が散乱していた。
そして、俺の体の中には全ての骨が無くなっている。
そして、やっと、ぐにゃぐにゃの手を喉の奥に入れて、取り出したのは・・・
「やっと、魚の骨が取れたよ」
母は、勿論、呆れ返っていた。
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