ユミの馬鹿野郎・・・
俺を振りやがって・・・
俺より少し、顔がいい奴が現れたからと言って、すぐに乗り替えやがって・・・
とにかく、俺はこの世に未練を残して死ぬ事にした。
ここは自殺の名所『みなげ岬』
沢山この世に失望した者が、身を投げ出すから、そう呼ばれている。
そして、俺も・・・
海面が黒い口を開けて、俺を待っている。
今から飛び降りようとしている時に、「やめて、死ぬのは・・・」と、声が聞こえた。
子供の声だ。
俺は驚いて、辺りを見回したが、誰もいない。
「ボクは、あなたとユミさんとの間にできた子供です。理由があって、姿が見せられないけど、今、未来から話しかけています」
「なにっ、俺とユミの子供・・・」
俺は誰かのイタズラかと思い、辺りをまた見回したが、子供の声が側で聞こえるにしては、誰もいない。
「そうです。だから、死ぬのはやめて。あなたとユミさん、いや、お父さんとお母さん、今は仲が良くないけど、お父さんの愛情を思いだし、結ばれるのです」
そうだったのか・・・
俺とユミが結ばれる。
未来から、俺の子供が話しかけていると言う事は、信じられないが、未来になれば、そういう事も可能なのであろう。
結局は、俺とユミが結ばれるのだ。
「ボクが生まれなくなっちゃうよ・・・」
「そ、そうだな。ここで死んだら、お前が生まれなくなっちゃうな」
俺は気持ちが前向きになり、笑いながら『みなげ岬』を離れていった。
その頃、みなげ岬の海面は・・・
「ワシも人間の言葉が喋れるようになって、自殺者も減ってしまったが、こうも毎日毎日、自殺者が現れたら、ネタが無くなってしまうけど・・・」
役者志望の自殺者が残したたくさんの台本が、海面に漂っていた。
やがて、『みなげ岬』の名前が、海の役者の芸で『みんな芸岬』と呼ばれる日も近いだろう。
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