俺が捜し求めていた映画館は裏通りからさらに奥まった路地の一角にあった。
暗い夜空から冷たい雨が音もなく降りそそぎ、剥げ落ちた壁を濡らしていた。
汚れてセピア色に変色し、めくれあがった一枚のポスターには、確かにその映画、俺が見たいと思っていたヤクザ映画『裏切りの入れ墨』を上映している事を告げていた。
古雑誌に載っていた「幻のヤクザ映画『裏切りの入れ墨』を年中上映中!」という映画広告を頼りに、半分もう終わってしまっているかと思ったけど、電車やバスを使い、はるばる郊外の町までやってきた甲斐があった。
俺は高鳴る胸を押さえて、入場券売り場の小窓に硬貨を押し入れた。
些細な事で疑いを掛けられた初老の男が、雨の中を警官に追われていた。
弾丸が掠めた肩から血を流し、苦痛にあえぎながら裏町から裏町へと逃げ走る。
追われる恐怖と苦痛で、かすんだ男の目に、小さな映画館が入った。
男はそっと映画半に忍び込んだ。
スクリーンに映画が終わったテロップが現れた。
周囲の人々がどやどやと立ち上がった。
その時、年取った男が俺に話しかけてきた。
「すみません。私と一緒に映画館を出て行ってくれないか。出口を通るだけでいいんだ」
「でも、俺は映画の途中から入ったから、前半部分を見たいんだ」
俺は男の申し出を断った。
男は困った顔をした。
「私、悪い者に追いかけられて困っているんです。今、この映画館の外で見張っているはずなんだ」
俺は考え込んだ。
「私の連れのフリをしてくださるだけでいいんです。お願いします」
俺は男が気の毒になった。
男の肩から流れる血が、床に黒いシミを作っていた。
「しょうがないな〜じゃぁ、行こう」
「ありがとうございます」
男は何度も何度も頭を下げた。
俺は男と肩を並べて、通路を進み、出口から暗い雨の中に出た。
男は立ち止まり深く頭を下げ、すぐに背中を丸めて冷たい雨の中に消えていった。
俺は何だが良い事をしたのかな〜と考えていた。
「おい、どうかしたのか」
俺の前に警官が立っていた。
警官の不審そうな視線が俺の頭からつま先まで走った。
「さっきから、ここに立っていたようだが・・・」
「俺は映画を見に来ていて・・・」
「映画?」
「こでやっている映画・・・」
警官は雨に濡れた帽子のひさしを上げて、俺の背後の建物を振り返った。
「君、この映画館は、もう三年前に不況で見せを閉じてしまって、近く取り壊される事にななっているんだぞ」
「そんな事があるもんか・・・ 俺は今の今まで映画を見ていたんだ」と、言いかけて、俺はハッとした。
警官の目が狂気の目をしていたからだ。
警官は拳銃を俺に向けて、逃げようとする俺に銃を発砲した。
運良く、弾丸はそれたが、俺の肩を掠った弾丸で、俺は負傷した。
俺は警官から逃げるために、冷たい雨の町を走り回った。
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