面 白 い も の


 スットコドッコイ氏が面白いもの見せてあげると言うので、俺は出掛けていった。
 スットコドッコイ氏は、ある研究で特許を取って大儲けをし、今では横浜の高級マンションの一フロアーを買取り、優雅な生活を送っていた。
 俺が豪華な応接室に通されると、すぐにスットコドッコイ氏が、一体のロボットを伴って現れた。
「このロボットが面白いものだ」と、スットコドッコイ氏が言った。
 俺は何の変哲もない家事用の人間型ロボットを見て、呆気にとられた。
(このロボットのどこが面白いのだろう)
「まあ、見たまえ」
 スットコドッコイ氏が言うと、指をパチンと鳴らした。
 隣りの部屋から七人のプロレスラー並みの身体の男達が出てきた。
「やってくれ」と、スットコドッコイ氏が言うと、まず、二人の男が同時に飛び掛かると、次の瞬間、ロボットは襲いかかってくる男二人をかわし、一人の男の顔面を叩き、もう一人の男の胸を蹴り、あっと言う間に二人をやっつけた。
「次」と、スットコドッコイ氏は叫んだ。
 今度は四人の男達が同時に飛びかかっていった。
 しかも、男達は木刀を持っている。
 襲いかかる木刀を、ロボットは軽々しく避け、片っ端から男達を投げ飛ばしていった。
「次」と、スットコドッコイ氏は叫んだ。
 次は三メートルもある男が空気銃を手にしていた。
 銃弾が発射される僅かな時間の間に、ロボットは人間には到底不可能な速さで、銃弾を避け、銃を奪い大男を蹴飛ばした。
「どうだね」と、スットコドッコイ氏は自慢気に俺に言った。
「このロボットは、ボディーガードなんだよ」
「ボディガード・・・」
「そうだ。近頃のような不景気な時代は物騒だから、わしみたいな大金を持ち歩いていると、いつ誰かに狙われるか分からない。まさか、十人、二十人もぞろぞろとボディーガードを連れて歩くわけにもいかず、そこで、何人分の実力を持つロボットならと思って、このロボットを作ったのだよ。今は力強い男が少なくて、これぐらいしか見せられなかったが、本当のロボットの力は、千人の強者が攻めてきても、軽々しくやっつけてしまうのだよ」
 俺はこれには驚きながらも、これには話のタネになるなと思った。
「このロボットは超一流の専門家に頼み込んで、空手、プロレス、柔道、ボクシング等の格闘すべての高等技術を体得している。何しろロボットは忘れる事を知らないから、ああくればこう、こうきたらああと言う風にと、あらゆる設定の基に、あらゆるテクニックを簡単ににマスターしてしまった。しかもロボットは主人に忠実だし、裏切られる心配はない・・・どうだ、面白いだろう」
 俺は感心しながらも、これを誰に一番最初に話してあげようかと、考えていた。
 そして、スットコドッコイ氏のマンションを出た途端、俺はいきつけのパブに行き、今日見てきた面白いものについて話しはじめた。


 そのスットコドッコイ氏が強盗に襲われ、有り金残らず取られたと聞いたのは、それから数週間後だった。
 俺はそれを聞いて仰天し、スットコドッコイ氏のところに駆けつけた。
「どうしたんですか。例のボディーガードのロボットは連れて行かなかったのですか」と、俺は聞いた。
「それが、そのボディーガードのロボットは、たんなる家庭用のロボットなんだよ」
「でも軽々しく男達七人もやっつけたじゃないですか・・・」
「実は、やっつけた男達もロボットなんだよ。効果的なやられ方をするロボット」
「何で、また、そういう事を・・・」
「先日、強いボディーガードのロボットが軽々しく人間を投げ飛ばすのを君に見せておくと、皆に『スットコドッコイ氏のところには物凄い強いボディーガードがいるぞ』と、色々な人に喋りまくり、良い宣伝になると思ったのです。それで、強盗達も警戒して、わしを襲ったりしないと思ったんだがね・・・」
「それにしても、おかしいですね。自分で言うのも何ですが、あんまり面白いものをスットコドッコイ氏から見せてもらったんで、喋り過ぎて、この街では知らない人はいないと思うんですが・・・しかも、ちょうど、全国放送のテレビ取材もあったんですが、そこでも喋りましたけど・・」
「そうなんだよ。実はその強盗、耳の聞こえない強盗だったんだよ」と、スツトコドッコイ氏は頭をかいた。
 俺はそれを見ながら、また面白い話しのネタが出来たと思った。




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