食  欲



 食物は食道を通り、胃に到達する
 胃液が食物を溶かし、次の食物を待っている。
 次々と・・・



 レストランのテーブルには、綺麗に食べ終わった皿が積み重なっていた。
 焼き肉定食、ラーメン、焼ソバ、大盛り大根ザラダ、ビック・ステーキ・・・と、彼は次から次へと、口の中に放り込んで食べている。
 近くで見ているウェイトレスも驚いている。
 ボーイが空いた皿を引き取りにきた。
「焼き飯に、スペシャル・お好み焼き、和風スパゲッティー、酢豚定食にイクラ丼」と、彼は注文する。
 ボーイは慌てて、注文書に書き、厨房へと走ってゆく。
 それと入れ違いに、その前に注文していた長崎チャンポン、コロッケ定食他6品の料理を持ってきた。
 彼はガッガツと口の中に、今度は皿ごと放り込んだ。
「お客様・・・」
 ボーイは驚いて声をかけるが、彼はそれには構わずに、テーブルまで、かじりだす。
 それからは、異常だった。
 彼は見栄えもなく、何でも食べはじめた。
 椅子、テーブルランプ、ビール瓶、そして、ボーイにウェイトレス・・・



 彼は次々と、食べはじめ、レストラン自体も食べ、隣りのビル、マンション・・・



 歯が丈夫なのか、ドンドンと食い、地球の半分までかじり、カブッと地球のを一飲み、月もペロリとたいらげ、太陽までも一口で食べた。
 彼には満腹という事を知らず、腹が狂気で渦巻き、ドンドンと食物を求めていた。
 彼は銀河系までも食い、ついに宇宙の果てまでも口の中に入れた・・・



 その時、彼の体内はやつと異常警告音を出した。
 グルグルと、お腹が鳴り出したのだ。
 ゲリだ。
 彼は尻の穴から、未消化の宇宙を吹き出していった。


えすえふ少説に戻る