マ ッ チ 売 り の オ ヤ ジ




 凍えるような寒い夜、空からは雪がこれでもか、これでもかと降り続いていた。
「ああ、寒い・・・」
 マッチ売りのオヤジは、かじかんだ両手を口元に持ってきて、ハーツと息をかけた。息は一瞬、両手を暖かくさせたが、たちまち、指がちぎれそうに冷たくなる。
 ツギバギだらけのスーツが生活の惨めさを感じさせた。バブルがはじけ、たちまち会社は倒産。友人の保証人になったばっかりに、逃げられ借金地獄。妻には逃げられ、娘は援助交際をしてホストに金を貢いでと、不幸のどん底。
 腹が情けなくなった。朝から何も食べていない。破けた皮靴からはみ出た親指までもが、食を欲しがっている。
「何でもいいから、何か食べたい・・・」
 がそれは無理だった。ポケットには昨日コンビニで買ったおにぎりの領収書しかなかった。
 朝から懸命に歩いたが、マッチは一個も売れない。重いボストンバックの中の大量のマッチが、恨めしい。
 マッチ売りのオヤジは、このマッチを燃やせば少しは暖まるかもしれないと考えた。
 マッチ売りのオヤジはマッチをすった。
 火はパァッと明るく燃え上がり・・・
 その中から優しい顔をした天使が浮かんだ。
「天使さんお願いです。私を暖めて下さい。そして、食い物を・・・」
 天使は優しくうなづき、マッチ売りのオヤジの身体に火をつけた。マッチ売りのオヤジは飛び上がるように喜んてせいるようだった。
 そして、三分後には人間丸焼きの出来上がり。



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