ビ ン 色 の 海 岸




 人生に幻滅した男が、海岸で悪魔の入ったビンを発見して、それを開けてしまった。ポーンと景気のいい音と共に、悪魔は外に飛び出した。
「ありがとう。俺は千年ぶりに、外に出る事ができた。お礼に一つだけ、望みをかなえてあげよう」
「そう言われても、この世には何の望みもありませんし、できれば貴方のように、ビンの中に閉じ込められて、世の中から隔離されて余生を過ごしたいまですが」
「そうか、そんな望みならすぐにかなえてあげよう」
 悪魔が呪文を唱えようとすると、
「あっ、ちょっと待って。そのビンの中は窮屈ではありませんか」
「そんな事はない。ビンの中は、次元が違うから、無限の広さを持っているんだ」
 すると男は首をひねって、
「あっ、誰かに開けられてもらって、邪魔されたくないので、絶対に開けられないようにしてもらえませんか」
「わかった。わかった」
「あっ、でもやっぱり、独りでは寂しいから、テレビとかラジオとかも一緒に入れてもらえませんか。それから、本も、贅沢を言わせてもらえれば女の子も・・・」
 悪魔は、だんだん、イライラしてきた。
「何でもいいから、早く入れて欲しい物わ全部いいな」
「じゃあ、車に、お金に、服に、それから、ええっと、ええっと・・・」
「何だ、まだ未練があるじゃないか」
「すみません」
「それじゃあ、あばよ」
 悪魔はピンと耳を立てると、男はビンの中に吸い込まれ、悪魔は呪文を唱えながら、急いでビンに栓をした。
「しまった」
 悪魔は叫んだが、遅かった。
「あいつ、最後に『この世の全て』と言っていやがったのだ」
 全宇宙がビンの中に入り、ビンの内側が悪魔と一緒に外側になって、内側から栓をされたのだ。ビン色のガラス越しに中を覗くと、海岸の景色が見えた。



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