ド ッ カ ー ン


「腹が減った・・・」
 新宿・歌舞伎町をフラフラと歩いている時である。
 突然、空腹感が襲ってきた。つい、十分前に、トンカツ定食を食べたはずだが、もう腹の中は、大腸菌も無い程、カラカラに空いてきているのである。
 何か食べないと、今にも倒れそうだ。
 俺は歌舞伎町を、空腹で何も考えられずに放心状態で、ああ行って、こう行って、にょろにょろと曲がっりくねって、五番街の居酒屋を通り過ぎた時『ゴキブリ亭』の看板が見えてきた。
 俺はつれづれなるままに、ゴキブリ亭に入って行った。
「いらっしゃいませ」
 威勢のいいマスターが、フラフラとボロ椅子に座った俺にメニューを見せてくれた。
 味噌の豚炒め、カレーアイス、チンタオ風金箔クラゲ定食、下級ソバ、モンスター串、及川光博定食、うんこの三年漬け等、とんでもない料理ばかり。
 俺はこの空腹感がなければ、店を飛び出したかったが、何しろ、腹が減って、減って。
 メニューの中ほどに『幽霊定食』という料理が気になった。うんこの三年漬けよりは、ましだろう。
「この幽霊定食をお願いします」と、声を絞るように俺は言った。
「ほいきた」と、マスターはスッ飛んで奥に引っ込んだ。
数分後、頭に三角頭巾、すっ裸に白のエプロン姿で、「うらめしゃ〜 うらめしゃ〜」と、ご飯一膳、持って出てきた。
「ほら、メシゃ〜」と。



 ゴキブリ亭のマスターは、もう一度、メニューを持ってきてくれた。
 柿の種定食、アジの股開き、金太マスカツト、カズヒロハステーキ、一世海老、馬鹿ネタ等、あいかわらずのメニュー。
「これ、お願いします」と、俺は興味を引かれた『ミステリー飴』を指さした。「味噌ザーメンですか」
「違います。その横のミステリー飴です」
「よしきた」とマスターは、ダッシュで奥に引っ込んだ。
 数分後、今の今まで流れていたホブ・マリーのBGMが止まり、それに変わって、ミステリー風の聞いた事のないような音楽が流れだした。
「はーい、お待ち」と、マスターは俺の口に飴を放りこんだ。
「おいおい、何を入れやがった」
「ミステリー飴です」
「何だ、勝手にこんな真似して」と、俺は段々、腹が立ってきた。いつのまにかに、空腹感は無くなってきている。
「今、貴方の口に入っているミステリー飴は三時間後に完全に溶けます。その時、貴方の身体が爆発するのです、ドッカーンと。勿論、吐き出そうとしても無駄です」
 俺は飴を吐き出そうとしたが、完全に舌の上に付着して、吐き出せない。
「助かる方法はないのか?」
「無い事もない。だから、ミステリー飴なのだ。この飴を食べたら命がけのスリル・サスペンス満点のミステリー体験が出来るように、脳細胞を刺激して、時間空間的な歪みが人間間のコミュニケーションを・・・」
「もうやめて下さい。難しい話しは」
「貴方は、ミステリー飴の食事効果の事は知らなかったんですか」
「知りません。知っていたら食べませんよ。何で、こういう目に合わないといけないのだ」
「こういう目か?」
 マスターの目はギョロ目になった。
「そういう目ではない」
「では、こんな目か」
 今度は、マスターの目はウオノ目になった。
「ウオノ目でもない。もうやめて下さい」
「折角、ヒラメも出来たのに・・」
「とにかく助かる方法を教えて下さい」
「助かる方法は、飴が溶ける前に、つまり三時間以内に横浜の『ゴキブリ亭二号店』の『助かり鯛』を食べて下さい。もし、飴が溶けたら、ドッカーンして、貴方の身体はこっぱ微塵に爆発しますよ。これは冗談でも、段田団でもありませんよ」
「ハリホー」
 俺はマスターのギャグについてゆけなくなった。
「早く横浜のゴキブリ亭二号店に行かないとドッカーンですぞっ。ハハハッ」
 俺はミステリー飴が少しづつ溶けはじめているのを感じた。
 慌てて、このいまいましいゴキブリ亭を飛び出そうとした。
「おーい、待ってろよ。ゴキブリ亭二号店の場所を知っているのかよ」
「あっ、知らない」
「これだ」と、マスターから渡されたメモを見た。
 メモには『玉葱2個 玉子19個 ニンジン1本』と、書いてあった。
「あっ、違う。こっちのほうだ。」
『ゴキブリ亭二号店は現在建設中』


「マスター、ゴキブリ亭二号店が建設中では、俺は助からないではないですか」
「助かります。建設中と言っても、二号店の店長のダ・ジャーレ氏は究極の料理の研究中なのです。そのメモの続きを読んで下さい」
 俺は『ゴキブリ亭二号店は現在建設中』と書かれたメモの下の方に、アリの脳味噌のように小さい字で何か書いてあるのを発見した。
「ほれっ、これで読んでみてくれ」と、マスターは用意してあったかのように、湯気がホカホカと蒸気しているメガネを俺に渡した。
「あちちちちっ・・・何ですか、これは・・・」
「蒸しメガネだ。これで読んでみろ」
 俺は、呆れたが、マスターに釣られて、頭がおかしくなったのか、あったかいコーヒーはあったかい、教会に行くのは今日かい、国道でオナラをこくどい、ダサイのを下さい、今日の予定は飲み会のみかい、日光でニコニコと、言いそうになったが、かろうじて抑えて、メモの続きを読んだ。
『私は現在、究極の料理を研究しており、この料理は馬の胃袋の料理で、ウマイ。しかもその馬は老いており、老いておりながらも虐(しいた)げられていなければならない条件がある。つまり、老いしい馬胃で、美味しい旨い料理だ。シュウマイではないぞ』
「マスター、何ですかこれは」
「もっと、続きを読め。百聞は一見にしかずだ。沢山書かれた文章は読むしかないのだ」
「・・・」
『その料理を作る為に、骸骨の格好で神戸にいる。これが本当のシャレコウベだ。なお、助かり鯛を食べたかったら助手の藁井省吾のいる食料研究所に行ってみるがよい。場所は横浜の中華街だ』
「中華街に行けば、俺は助かるのか・・」
 俺はマスターに聞いた。
「ああ、助かる。ただ、ダ・ジャーレの助手の藁井君だけど、名前のごとく、笑い上戸だから・・」
 また、シャレだと思っていたら、店の奥から十五才位の女の子が赤ん坊を抱いてやってきた。
「娘の満子に、孫の珍子だ」と、マスターは俺に紹介してしれたけど、俺はそれところではない。
「お父ちゃん、私も究極の料理を思いついちゃった」
「何だ、何だ」
「まずね、鍋の中に水を入れて、この赤ちゃんも入れちゃうの。そして、グツグツと熱湯の中で赤ちゃんを煮ちゃう料理なんだけど、面白いでしょぅ」
「まあ、そうだな〜 まだまだかな。ところで、その料理の名前は何と言うんだい」
「名前? う〜んと、ユデタマゴ。ゆでた孫だからユデタマゴ」
「おう、それは面白い」
「良かった。お父ちゃんに喜んでもらって。じゃぁ、また赤ちゃん、ドンドン作るから、ユデタマゴを大量生産しょぅ」
「そうか、そうか、大量生産か。大量生産しやすいように、奥の冷蔵庫に入っている蟹を食べていいぞ。蟹の名前はツワリ蟹だけどな」
「ありがとう。でも、今度、子供を作ってくれる男性は誰が良いかな〜」
「風邪を引いている男性が良いぞ。『子度は風邪の子』って、言うしな」

 流石の俺も、ゴキブリ亭親子のブラックギャグについてゆけずに、店を出ようとした。
「おい、待ちな。料金、払ってゆけよ」
「料金?」と、俺はマスターの請求にスッとぼけようとした。
「料金だよ。幽霊定食が五万円で、ミステリー飴が三円、合計で九億円だ」
「えっ、何で、そんな合計金額が上がるんですか」
「貴方が逃げようとしたから、消費税ではなく、逃避税も含まれるんだよ」
「ええっ、でも、そんなお金、持っていないですよ」
「持っていないでは、すまされないですよ。でも、ここで許したら常連客になるかもしれないし・・・う〜ん、それなら、梨を食べたら許してあげましょぅ」
「梨?」
「貧乏暇梨です」

 奇妙な殺人事件は、高層マンションの502号室で、源場三田蔵がしょうもない推理小説を書いている時に起きた。

『怪人八面相という盗賊の親分が現れ、あっ、ケチ探偵に、もう悪い事は辞めなさいと、堅気に戻る事を勧められる。が、怪人八面相は、ワハハハッ、私が、そう簡単に盗みをやめられると思っているのかね。私はどんな事があっても、盗みはヤメンソウ、八面相と言う』というオチ・・・
「駄目だ、駄目だ。これでは、駄目だ」
 源場はやっと、書き終えた原稿を丸めて、ゴミ箱に投げ捨てた。
 原稿は一直線にゴミ箱に入ったが、源場の作品は一度も応募しても入選はしていない。
 親の遺産で食いつなぎながら、いつの日か、日の目を見る日が来るかもしれないと、希望を持ちながらも、来る日も来る日も、推理小説やSF小説を書き続け、ある日は出版社に持ち込んで行ったが、編集長にバケツの水を掛けられ追い出され、ある日は応募した出版社から入賞賞金が届いたかと思ったら、源場の原稿を読んで選考委員全員が気が狂った治療費の請求だったりと、散々な執筆活動だった。
「さて、また書こうか」と、源場が、またペンを握った瞬間、
「ギャーッ」と、隣りの502号室で女性の叫び声が聞こえてきた。
 源場は慌てて、ペンを落とした。
 隣りの502号室の住人は、美人の女性が住んでいると、大家から聞いた事がある。
 これは助けに行かなければ。
 源場が玄関のドアを開けた時に、502号室から変な男が飛び出してきた。男は身体が血だらけだ。
 
「うぎょ」と、男は源場に見られた事に慌てた。男はただならぬ顔をして、顔を隠して、後ろを向いた。顔隠して尻隠さずだ。
 男は、それから、右足と左足を同時に出したり、右手をグルグルと回したりして、器用に逃げ出した。
 源場は、男を追いかけようとしたけど、男より、美人の方が心配だ。
 源場は、502号室の開けられたままのドアから中を覗いた。
「ギャーッ境」と、源場は変な叫び声をあげてしまった。
 何と、部屋の中にはこの世とも思えぬ綺麗な美女が、血に染まって倒れていた。
 美人が殺されてしまった。
 源場は「殺人事件を見てしまった。現場見たぞう」と、自分の名前を言ってしまっていた。
 階段の方では、ドデンコテンと、転げ落ちる音がした。
 犯人が転げ落ちたらしい。
 これで、階段オチというオチがついた。

 貧乏梨を一口で食べて、ゴキブリ亭を出た俺の目にパトカーがとまっていた。
 パトカーの中から刑事が出てきて、手帳を見せながら言った。
「かみのです。刑事ですので、上野刑事です。神の啓示ではありません」
 俺はひっくり返りそうになった。
「実は、昨日、隣りの高層マンションで殺人事件が起きたのです。それが、奇妙な殺人事件なので、名探偵の市河町香、人呼んで推理するのも、一か八かの市河町香に捜査協力をお願いして、現場につれてきたんですが、急にいなくなったんです。真珠のコートを来た女性なんですが、太っているので、豚に真珠・・・あっ、これは言っちゃいけなかった。見なかったですか? パールのハーフコートを着た太った女性を」
「今まで、ゴキブリ亭の中にいたので、見なかったですね。でも、その奇妙な事件とは、どんな事件なんですか?」
 俺は逆にギャグを言わずに質問してみた(説明:逆とギャグ)。
「隣りのマンションの502号室で絶世の美女、河合音菜が鋭利な刃物らしき物で刺されて殺されたんですが、凶器が見つからないんです。それというのも、容疑者は犯行直後、源場三田蔵に502号室から出るところを目撃され、慌てたあまり、容疑者は階段から落ちて即死。勿論、容疑者は、出っ歯でしたが、『出っ刃』で殺したわけではないようですが。502号室から階段までの距離で凶器を隠せそうな場所もなく、現場にも凶器らしき物もなかった。しかも、その502号室ですが、奇妙な事に、引っ越しする前のように、タンスやベット等の無ければ、日用品、台所用品も全くない殺風景な部屋なのです。これでは、凶器の捜しようがない。どのようにして、殺されたかと思います?」
 俺が考えていると、隣りのマンションからドラムカンが、いやいや、パールコートを着た丸々と太った女性が出てきた。小錦を5倍にしたように大きい。
 上野掲示がすぐに気づいた。気づかない方が、どうかしている。
「市河町香さん、何処に行っていたんですか」
「犯行現場ですわよ。反抗する為にじゃないわよ。いくら犯行でも。現場には手鏡が落ちていると言うでしょう」と、市河町香は急に、お化粧をはじめた。
「それって、手がかりではないでしょうか」と、上野刑事は突っ込んだ。
「そうとも言う。でも、事件は解決したわよ」
「ええっ。本当ですか。こんな難事件、すぐに解決できるなんて、さすが名探偵」
「えーと、今13時45分です」
「あっ、今『何時けぇー』と聞いたわけでなく、『難事件』と言ったのです。それより、教えて下さい、事件の真相を」
「わかりましたわ。事件の真相は、これが鍵ですわ」と、市河町香は、ハート型のマークを見せてくれた。とてつもなく、ピンク色だ。
「何ですか、それは」と、上野刑事。
「これは、容疑者の恋心です。河合音菜の美しさにまいったのでしょぅ。よく、言うでしょう。父親とかが『娘を傷物にした』とかね」と、名探偵の市河町香が話してしている時に、笑い声が近づいてきた。
 世界的有名な名探偵のシャーベット・ホールズのお出ましだ。

「ハハハッ、市河町香さんは男心がわからないらしい」
「何ですって・・」と、市河町香は、鼻をヒクヒクさせながら言った。地面に落ちていたゴミが鼻息でふっ飛んでいった。
「男というのは、哀しい子とに、美人の前ではオオカミになれないものだよ。せっかく、美人と遊ぼうとしている時に。昔の人が言っているじゃないか、美人は食ぇめぇーと」
「あれっ、それって、美人薄命のギャグですか」と、上野刑事。
「まあ、とにかく・・・」と、シャーベット・ホールズは話しを続けた。「容疑者と河合音菜が遊ぼうとしている時に、河合音菜の様子がおかしくなる。河合音菜が叫び出したのだ。こんな捜査でいいのか・・・」「シャーベット氏、今のは捜査一課のギャグですよね」と、上野刑事。
 シャーベット・ホールズは構わず推理を続けた。「捜査一課の調べによると、河合音菜は全身整形していたそうじゃないか。それを容疑者にばれそうになる。」
「なぜ、河合音菜は叫び出したのです」
「胸から血が吹き出したのです。それを誤魔化そうと、叫び出した」
「なんで、胸から血が・・・」
「綺麗なバラにはトゲがあると言うではないか」
「女は魔物だ」
「いや、女は刃物だ」

 俺は奇妙な探偵達を置いて、新宿駅に向かった。
 殺人事件どころの騒ぎではない。今は、俺の命が関わっているのだ。
 俺は先を急いだ。
 コマ劇の前を通り過ぎようとしたら、マックの前に一人の少年がブツブツと呟いていた。
「僕は老い先短い。と、長くて70年、80年しか生きられない」と、絶望に伏していたが、俺は先を急いだ。

 俺は、新宿に向かおうとしてたが、どうしても、気になった人がいた。奇妙な占い師に普通のサラリーマンが占っていたのたが・・・

「本当に、写真を見せるだけで、その被写体の一番欲しい物がわかるんですか」
 サラリーマンは、少し疑いの目で、占い師に言った。「本当です。この水晶玉で透かして写真を見れば、はっきりと被写体の欲しい物が写ります。例えば、この赤ちゃんの写真ですが、この水晶玉に透かせてみます。ほれ、貴方、水晶玉を見てごらんなさい」
 サラリーマンは疑いながらも、水晶玉を覗きこんだ。
「あっ、本当だ。ミルクが写っている」「この赤ん坊は、ミルクが欲しいんで泣いているんです。ところで、誰か占って欲しい人はいますか。一件につき、三千円です」
「実は、今日は妻の誕生日で、今、プレゼントは何にしょうかと迷っていたのです。今、写真を持っていますから、占って下さい」
 サラリーマンは、写真と三千円を占い師に渡した。
「綺麗な奥さんですね」と、言いながら、占い師は水晶玉の下に写真を置いた。
「何が写っていますか」
「貴方、本当に知りたいですか。事実は時として、残酷な場合があります」
「何なんですか。教えてくださいよ。三千円も払ったわけですから。まさか、私でない男の姿とか・・・」
「いいえ、貴方なのですが・・・」
「じゃあ、いいじゃありませんか」と、サラリーマンは水晶玉をのぞきこんだ。
水晶玉には、サラリーマンの生命保険金か写っていた。

 俺は新宿に向かおうとして、靖国通りの信号待ちしていた。
 隣りの男が歩こうとしていたので、信号が変わったかと思い、歩るきはじめた。
 が、よく信号を見ると、まだ変わっていなかった。
 隣りの男に騙されたのだ。だから、フルートを持っていたのだ。フェントをかけられたのだ。
 俺は、フェントに騙されて、二歩三歩と、横断歩道を歩いていた。
 当然、車が突っ込んでくる。
 車はジャガーだった。
 ジャガーじゃが・・
 俺はジャガーに跳ねられる寸前、「ちょっと待った」と、車に向かって祈った。
 待った無しの成仏(勝負)。

 俺はゆっくりと、目を開けた。
 俺は、ジャガーにひかれそうになっていたのだ。
 ジャガーに乗っている黒髪の女はパカンと口を開け、今にも「あぶなーい」と、叫びそうだった。
 俺は慌てて、歩道に戻ろうとしたが、歩道で待っている馬鹿でかい男にぶつかり、酔っ払いのように転び、また車道に出てしまった。
 新宿の街は異様な静けさで、風さえも吹いていなかった。
「時間が止まっていないか・・・」
 俺は歩道に戻り、普段出来ない悪戯をしてみた。
 格好良い男にあかんべぇーをさせてみたり、モデル並のOLにゴリラの物真似をさせてみたり、チンピラには浮浪者の前で土下座させてみたり、人形のように思い通りに動かせられるので、調子に乗ってしまう。
 宝石店から宝石類を盗み出し、寝ている浮浪者の辺りにぶちまけて、家宝は寝て待て。滅茶苦茶かわいい女の子がいたので、バットでお尻を叩いてあげる、かわいい子にはお叫びをあげろ。
 遠くに、警官がいるのに気がついた。一度でいから、拳銃を使ってみたい。警官から拳銃を取ろうとた時に・・・
「こらーっ」と、不気味な声。
 俺は驚いた。
 声のする方向を見ると、黒服に黒スボン、おまけに黒のシルクハット。まるで死に神のよう。
「そうだ。私は死に神だ。勿論、ハゲの死に髪ではない」
 死に髪は、俺の心の中を読んだようだ。緑色の液が死に神の口からこぼれた。
 毒だ。
 隣りの男が倒れた。
 毒死ん術を使ったようだ。

「こらこら、私が何の為に、時間を止めたと思っているん゛」と、死に神は不気味な声で言った。命まで吸い取られそうな声だ。
「わかりません」
「車にひかれそうで、死ぬ所だったろう。今、貴方に死なれたら、折角、作者がネットで小説を書こうと思っているのに、書けなくなってしまうだろう」
「ごめんなさい」と、俺は謝った。俺は車にひかれて、ゴミまみれの道路に俺の内臓や、消化されずに胃に残った野菜が飛び散った俺の死体姿を想像した。
ゴミ野菜だ。ゴミンナサイだ。

「ミステリー飴を口の中に入れているのかね」と、死に神は相変わらず不気味な声で言った。しかも、口が臭い。死人に口臭し。
「そうです」と、俺は今までの経緯を数秒で語った。話しが早い。あまりにも早く喋り過ぎたので、歯が無くなったかと思った。歯無し(話し)がヤバイ。
「それなら、これがあれば、三時間はミステリー飴が溶けるのが遅くなるだろう」と、死に神が見せてくれたのは、パンジーだった。飴食えパ、ンジー固まる。
「そのパンジーは何ですか」
「だから、三時間だけ、飴溶ける溶ける代わりに、このパンジーが固まるんたよ」
「それって、雨降って地固まるのギャグですか?」
「それより、物語を進めよう。で、この魔法のパンジーをタダであげたんじゃ面白くない。タダより恐いものはないから、条件をつけよう」
「条件とは」
「十問の問題を出すので、その中の一つでも当たれば、魔法のパンジーは貴方の物です」
「十問のうち一つでは当たれば良いとは、随分と、大マケですね」
「いや、貴方が呪文を唱えやすいようにと思って・・・」
「どんな呪文なんですか?」
「一問、二問、三問・・・九問、呪文で、どうだ」
「さっそく、問題を出して下さい」
「では第一問、教師の家にスナックのママから電話があり、店に遊びに来て下さいとお願いされた。て、教師は、いつ遊びに行くと答えたでしょぅか?」

「答えは今日行く(教育)ママです」と、死に神はニヤニヤ笑いながら言った。
「ええっ、そういう問題だったんですか」と、俺もギャグ感覚で答えれば良いのかと、納得してしまった。
「では、第二問。いつも賑わっている商店街で、このたび、3店が新装オープンした。1店は、不良少年が息子にいるが、いつもニコニコと愛想の良いハゲ親父の店のコロッケ屋、2店目は、医者の息子がいる、いつも仲良し夫婦が経営するパン屋、最後は去年ミス商店街に選ばれた娘のいる、ケチで頑固者の老人の店の自転車屋だ。3店とも朝から夜まで、頑張って商売に精を出した。が、一ヶ月後、1店だけ倒産してった、。それは何屋でしょぅ。また、それはなぜでしょぅ」
 俺は死に神の長ーい、長ーい問題に聞きながら、つい眠そうになったが、ここは寝るわけにはかない。
「えーと、えーと」どうても、答えが出ない。
「ブーッ、時間です。答えはコロッケ屋です。ハゲ親父が良いヒントで、ハゲ→もう毛がない→儲けがない→倒産という公式になる。コロッケにこけて、親父(倒産)でも良かったかな」
「ええっ、そんな答え、アリですか」
「大ありです。では、第三問目」
「おいおい、まだ第二問目の解答に質問しているのに」
「それは無視して第三問目」と、死に神は淡々とギャグクイズを出し続けた。
「第三問、社長が持ってるのは万年筆、社員が持っているペンは?」
「う〜ん」
「社員ペン、サインペンです。第四問、ヒドイ古臭いブスは?」
「・・・」
「ピテカントロブス。第五問、孫が祖父と食べるケーキは?」
「・・・」
「祖父とクリーム。第六問、痩せ過ぎて、おかしい格好のニワトリは?」
「・・・」
「骨鶏、滑稽です。第七問、鬼退治に行った桃太郎は、間違えてオムスビを鬼に渡してしまったら、鬼は桃太郎の仲間になってしまった。なぜでしょぅ?」
「・・・」
「お握りで、鬼義理です。第八問、死んだら何才になるでしょうか?」
「4×5の、死後二十で、二十歳です」

「第九問、例えばレストランがある。そのレストランは、全ての国の内装、外装、料理と揃っており、何処の国のバーか、分かりません。ウエイトレスも色々な国の女の子で、皆目見当もつかないレストランはどこの国のレストランでしょぅ。」
「・・・完璧にわかりません」
「残念ですね。最初に『例えば』と言ったはずですよ。例えばの漢字を一つ一つばらすと、イとタとリで『イタリー』でイタリアですよね。」
 とうとう最後の問題になってしまった。
 俺は先ほどから不安になっている事を口にした。
「もし、この最後のを答える事が出来なかったら、俺はどうなりますか」
「さあ〜 残り時間も少ないようだし、新宿駅に向かう前にドッカーンじゃないかな。それとも、私に魂を売り渡すか」
「それだけは、嫌だ」
 俺は廃人になった俺を想像し、ブルッと身震いした。
「では、最後の問題。最後の問題は、漢字の問題です。得意かな」
「いいえ、得意では・・・『水餃子』(すいぎょうぎ)を『みずぎょうざ』と言って中華料理屋で恥をかいたり、小学校のテストでは『いっしょうけんめん』を『一生県名』と書いたり、『政治』を『まさのり』と読んだり、学校の先生を驚かし、職員室の話題に上がったり・・・」
 俺は涙声になっていた。
「では、最終問題です」と、死に神は、俺にはお構いなしに問題を続ける。
「漢字の部首で、分類されているが、一番難しい部首は何でしょうか?」
「・・・」
 俺は絶望で口の中が乾いてきた。
「わかりませんか?」
「わかりまへん」
 口まで回らなくなってきた。
「ええっ、わかりまへん。えっ、わかりま辺。正解です。魔法のパンジーをさしあげましょぅ」

 気がつけば、俺は新宿駅にいた。
 死に神から解放されたらしい。
 俺は横浜に向かおうと、キップ販売機に向かった。
「あれっ」
 コインを販売機に入れてもキップが出てこない。俺は、すぐに駅員を呼んだのだけど、この駅員、頭がおかしい。
 販売機に向かって、「お客様に失礼な事をしただろう」と、機関銃をぶっ放そうとするのだ。
 たまらず、俺はおかしな駅員に「ふ、普通の駅員をお願いします」と言ったら、本当に、普通、ふくつう、腹痛をおこして腹を痛そうに押さえている駅員が現れた。

 新宿駅の改札口を入ると、急に尿意をもよおした。我慢すると膀胱炎になるので、尿意ドン、用意ドンとトイレに向かった。
 新宿駅のトイレはいつも変わった人が多いが、今回も通勤用の鞄を口にくわえて小便をしていたり、浮浪者がトイレの悪臭をオカズ代わりに弁当を食べていたりと、変人に事欠かない。
 俺は、入口近くの朝顔式男子便器で用を足していたが、隣りでブツブツと口臭を巻き散らしながら呪文らしき言葉を吐いているので、臭くてたまらない。これが、本当の口臭便所。
 用が終わったので、俺は後ろに並んでいる人に譲ろうとしたら、中年のおじさんにぶっかってしまった。今から小便をするので、シッコ妨害してしまった。
 ウルトラマンガ入ってきた。本当、新宿のトイレには色々な人がいる。
 大の方は満室だった。
 ウルトラマンは、いまにも我慢できそうにないようだ。
 カラータイマーもピコピコ鳴っている。
 そこに、一つのドアが開いた。
 ウルトラマンは叫んだ。
「空だ、今だ」と。
 カラータイマーも今が空だと知らせていた。からーだ、いまーと。

 そもそも、俺が新宿から横浜・中華街に向かうのに、品川まで山手線を使い、それから京浜東北線に乗り換えようと思ったのは、ただ単に、それしか思いつかなかったせいだ。本命竜馬の小説だから、新宿駅から日★テレビ局を襲い、ヘリで横浜まで向かっても、おかしくないのだけど、主人公の俺の性格上、電車を使っているので、作者はそのまま、俺の行動を書いているにすぎないのだ。
 俺はホームに滑り込んできた山手線に乗り込んだ。車内は空席が目立っていたので、何となく、昔風の少女の横に座った。少女は文庫本を読んでいた。
 ふと、少女は独り言を言った。「どうしょぅ」と。
 俺は、とっさに「どうしたんですか?」と聞いていた。俺も他人の独り言に対応したのには、びっくりしたが、少女はもっとびっくりした。
「すみません。驚かせてしまって」と、俺は大人らしく謝った。少女も「いいえ、こちらの方こそ」と、礼儀正しく謝ってきた。普通なら、そこまでいかないまでも、話しは終わってしまうのだが、少女はとんでもない話しをしはじめた。
「実は、この本を読み終わると同時に私は殺されるのです。でも、途中でやめられない程、この本は面白くて面白くて、どうしてもやめられないのです」
 少女は文庫本の表紙を見せてくれた。
『かっぱえびせん物語』と書かれていた。俺は、ピーンときた。かっぱえびせんの有名なCMフレーズに『やめられない、とまらない』というのがある。それのギャグかなと俺は思ったが。でも、何で、それで、死ぬのだと、不思議に思った。
 少女は、再び読みはじめた。もう最後のページになっている。
 あと、数行。
 俺は少女が最後の一行を読む前に、俺が先に読んでいた。
 少女の額から汗が落ちる。
 俺は「やめろ」と、叫んだが、遅かった。
ハリセンが、どこからともなく飛んできた。
 少女の頭が、乾いた軽い響きを残してふっ飛んでいった。
 最後の一行には『カッパーン、ハリセン』と、書かれていた。

 山手線の電車は渋谷に滑り込む。女子高生の大群が乗り込んできた。皆、同じような顔で、流行遅れのルーズソックスを履き、制服姿。びどいルーズソックスになると、相撲取りのまわしのように、これでもかと、どデカイのまである。
 俺は座席に座って、一人一人の女子高生を観察していった。一様に、その女子高生は浅黒く、オデコが広く、眉毛が細く、ほっぺたが膨らんでいる。女子高生達は車内を占領していた。
「私の彼氏、チョームカつく」「つまんなーい」「さいてーぇ」などと、意味のない会話をしている。俺は女子高生を観察しながら、ある種の恐怖を味わっていた。何だ、何だ・・・女子高生が、ついに本当に同じような顔になっているではないか。典型的なアムロ顔。
 隣りに座っていた男が一見、世論評論家のごとく分析していた。
「女子高生達は、写真で友情を演出する為にプリント倶楽部、通称、プリクラに精を出している。人にプリクラを見せて、友達が多いんだねと言われるのが嬉しいらしい。偽装友情。プリクラを交換して、偽装友情を成立させる為に、自分も写真を取る。より良い自分を写す為に、自分自身を変えてゆく。進化。女子高生はプリクラに写られやすいように顔が変化してゆく。オデコが広くなり・・・」
 俺は隣りの男の言葉が聞こえなくなった。周りの女子高生達の異常な出来事に目が奪われたからだ。
 女子高生達が、何と、プリクラの写真になってしまったのだ。写真の女子高生はニッコリと笑い、周りにはオデン屋や賑やかな絵で飾られていた。人気の可愛いキャラクターも浮き出ている。
「やっと、素に戻ったんだよ」と、隣りの男が言った。
「す?」俺は隣りの男が何を言いたいのか、わからなかった。
「素顔の素だよ。その証拠に今に・・・」
 女子高生達の首がグルグルと回転しはじめた。そして、思い切り鼻水を飛ばしている。
「今に、素プリクラ、スプリンクラーになるだろう。ギャハハハ・・・」と、隣りの男は発狂した。

 電車が目黒駅を過ぎた頃、俺は座席に座りすぎて、お尻が痛くなってきた。
 俺がお尻をムズムズしていると、俺の前の吊り革につかまっている中年の男が話しかけてきた。
「私は、こういう者ですが」と、名刺を差し出してきた。「ちょっと、私の会社の話しを聞いて下さい」
『肛門株式会社 営業部長 北村完痔』
 俺は名刺を見つめながら、キョトンとした。誰だってそうだろう。電車の中で営業されるとは思っていない。が、俺は長い間、伝視野に揺れていたので退屈していた。で、話しを聞くことにした。
「肛門株式会社とは、どういう会社なんでしょうか?」
「簡単に言えば、お客のニーズに合わせてお尻を提供する会社なんです」
「お尻の提供? もしかして・・・」
「いえいえ、そういう人種を扱っている会社じゃありません。たまにはいますが・・・私共の会社は、お尻の形が悪いとか、痔で悩んでいる人達に、お尻を取り替えていただいている整形美容的な営業を行っている会社です」と、北村営業部長は、焦りながら言った。
「で、俺に会社説明したという事は、俺に何かをして欲しいというわけですね」
「ええ、そうです。その美形のお尻を売って欲しいのです」
「確かに、座り過ぎて、今、お尻は痛いですが、いらないとは思っていません・・・」と、俺は軽く断った。
「でも、欲しいのです。実は新宿駅から私共のお得意様から、あなたのお尻が欲しいと連絡があったものですから、どうしても手に入れないといけないのです」
 俺はお尻が無くなった自分の姿を想像して、お尻がすぼんできた。いくら、お得意様が俺のお尻を欲しいからと言っても、出来る事と出来ない事がある。
「尻もすぼめば、カマとなると、言うでしょう。だから・・・」
「それって、チリも積もれば山となるの・・・」

 電車が五反田を過ぎた頃、俺は生温かい風を感じた。
 不気味な死の気配。
 この中の乗客に死が迫っている人がいると予感した。
 俺の前に座っているのは女子高校生、どこでもいそうな女子高生である。平凡な女子高生なので、こいつではなさそうだ。
 その隣りは、百歳をとっくに過ぎていそうなにの、化け物みたいに、電車の中で、鉄アレイで筋力トレーニングしている、おばあちゃんがいた。絶対に、この人ではない。死に神泣かせなおばあちゃんだ。
 その隣りには、あっ、こいつは、飛ばそう。不気味な女だからだ。今にも「生きるって、何ですか?」と、尋ねてきそうだ。
 ノッポとチビのデコボコ漫才師もいた。
「最近、また背が伸びてきたんだよ」と、ノッポが言う。
「いいな〜 俺の方は、背が縮んできたんだ」
「何がいいもんか。背が高いと、天井にいつも頭をぶつけたり、腰をかがめないと電車にも乗れないんだぞ」
「俺なんか、もっとひどいぞ。朝のラッシュ時に、おねえちゃんのハイヒールに踏まれたり、アリにも馬鹿にされるんだぞ」
「しかし、背が低くて、人工衛星にぶつかる心配はないだろう」と、お粗末漫才。
 ふと、俺は窓の外を見た。
 道路を囲んで、大勢の野次馬がいた。
 事故らしい。トラックと軽自動車の正面衝突だ。
 悲惨な軽自動車が見えた。
 が、乗っていたカップルは奇跡的に生きているようだった。しかも、ピンピンしている。
 ピンピンし過ぎて、カツラが落ちた。
 つるっ禿げだった。
 毛がない。怪我がない・・・
 男が助かった原因がわかったけど、女の方は、なぜ、助かったのだろうか。
 俺は考えた。
 女は無愛想な感じがする人であった。
 男に対して媚びたりしない女、シナを作らない女、シナない女、死なない女だったのだ。
 俺はカップルが平気な理由がわかり、「ハハハッ」と、笑い出した。それに、反応したのは、不気味な女だった。女は俺と一緒に笑い出した。
「シッ、シッ、シッ、シッ・・・」と。
 しかも、女は俺と目を合わした途端、もっと笑い出した。
「死、死、死・・・」と。

 作者談:『突然ですが、主人公の行動を追いながら、連作ギャグを加工、いや、書こうと思ったら、主人公の乗った電車が品川駅に到着しそうになった瞬間、突然、主人公は行方不明になり、ドッカーンを書けなくなってしまいました。ここまで読んで続きを読みたい方がいないと思いますが、もし、いたと思いますが、深くお詫び申し上げます』



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